現場到着と初期調査:不調の「本当の原因」はどこに?
お客様のご自宅に到着し、まずは1階と2階の既存LAN設備の状況を確認しました。
工事前の写真(1階コンセントプレート)
一階のコンセントプレートをあけたところ。ひとつの穴からLANと光ケーブルが出ている。奥に黒いTLフレキが見える
1階は、光ケーブルが出ているテレホンガイド(丸穴タイプ)から、LANケーブルがそのまま引き出されていました。コンセントプレートを外して壁の中を確認すると、14mmの「TLフレキ(合成樹脂製の可とう電線管)」と呼ばれる黒いチューブから、光ケーブルとLANケーブルが一緒に出てきています。
一方、2階は壁面にLAN端子(情報モジュラジャック)が設置されていました。壁の中を覗くと配管(チューブ)は無く、壁内の空間を上から降りてきている状態でした。
前業者様は「壁の中のどこかでジョイント(結線)されていて、そこが原因だろう」と推測していたようですが、私たちが配線のルートを探る前に必ず行うことがあります。それは「専用テスターによる正確な診断」です。
ケーブルテスターによるワイヤーマップテスト結果(工事前)
ケーブルテスターで測定すると、画面には「Open mapping: 36」の表示。これは8本あるLANケーブルの芯線のうち、3番と6番が繋がっていない(断線または接触不良)ことを示しています。
原因を確かめるべく、2階の壁面端子を開けてみると……驚くべき事実が判明しました。
右の2本が押し込み不足で断線していました
テスターで断線と表示された3,6はこの2本のこと
なんと、LANケーブルの芯線が端子にしっかりと挟み込まれておらず、3番と6番の挿入不足が一目でわかる状態でした。さらに、このパナソニック製の工具レス器具は、部品の一部で芯線を押し込み、それが最終的に「保護用のふた」になる構造なのですが、そのふたすら使われていませんでした。
お客様には「ここを正しく繋ぎ直すだけで、1Gbpsの速度は出るはずですよ」と正直にお伝えしました。適切な手順を踏み、最後にテスターで確認さえしていれば、お客様が長年不便な思いをすることも、無駄な調査費用を払うこともなかったはずです。同じ設備工事に携わる者として、基本を欠いた施工には少し残念な気持ちになりました。
ただ、お客様の中ではすでに「最新のCat6Aへ入れ替える」ことが決定事項となっており、当社のお見積りもご予算内に収まっていたため、予定通りCat6Aへの総入れ替え工事を進めることになりました。
消えた配線ルートの謎:屋根裏での徹底捜索
入れ替え工事を行うにあたり、最大の難関は「既存のケーブルがどこを通っているか」を解明することです。
2階から壁の中を上がったケーブルは、順当に考えれば屋根裏(天井裏)を通っているはずです。天井点検口から屋根裏に進入し、奥の方まで進んで確認作業を行いました。(※屋根裏の奥の方での作業は身動きが取りづらく、なかなかの重労働でした)
点検口を開けた際、前業者様が処置したと思われる断熱材が雑に詰め込まれていました。見えない場所だからこそ、丁寧な仕事が求められます。こちらは当社が工事後に直した状態です。
しかし、屋根裏にTLフレキが通っている様子はなく、そこでケーブルが合流しているわけでもありませんでした。ここで、一つ目の手がかりを発見します。
左の外壁から上ってきたケーブルが右の外壁へ続いていました
屋根裏の奥、2階の部屋の「右側の外壁方面」に向かって、青いLANケーブルが下りていっているのを確認したのです。
さらに、1階浴室の天井点検口を確認すると、ここにも光ケーブルとLANケーブルが入ったTLフレキが通っているのを発見しました。
「屋根裏から右の壁の中を通り、足元のコンセント裏で合流しているのでは?」と推理し、棚を動かして壁を確認していただきましたが、コンセントもプレートもありません。ルートは再び謎に包まれました。
逆転の発想とプロの執念:屋外からのアプローチ
ここで、一つの仮説が浮かび上がりました。
「もしかして、屋外の入線カバー(防雨引込カバー)のところまで壁の中を下りていき、そこから屋外側の引き込み配管の入り口を通って、光ケーブルと一緒に1階へ向かっているのではないか?」
これを確かめるには、屋外の高所にある入線カバーを開けるしかありません。
通常なら「ルートがわからないから屋外を露出配線で…」と提案されがちなケースですが、外壁への穴あけは建物の美観を損ねます。私たちは、お客様の家を傷つけないための「既存ルートの解明」にこだわりました。
ちょうどお隣の家の駐車場が空いていたため、お客様とお隣の方にご許可をいただき、梯子を立てさせていただきました。
配線取り出し部分は側面に多いため、事前に近隣の方とお話しされているとスムーズです
カバーを開けて中を確認すると……推理は的中!
屋根裏から通ってきている既存のCat5eケーブルが、光ケーブルと一緒にTLフレキに入っていく箇所を発見しました。これでようやく、1階から2階までの「隠されたルート」が完全に繋がりました。
胸ポケットのカメラで撮影したところ、映っていませんでした。
Cat6A通線・成端作業
ルートさえわかれば、あとは私たちの専門分野です。
既存のルートは非常に通りにくい可能性があったため、まずは二人掛かりで慎重にテストを行いました。
古いCat5eケーブルの端に、新しいCat6Aケーブルをしっかりと結びつけます。途中で外れてしまっては元も子もないため、引っ張りに負けないよう結び付けて強固にテーピングします。
総延長が20m程度ある長いルート。室内方向に引っ張るのは摩擦が大きいため、一旦屋外(防雨カバー方面)へ向かって20m弱を引き抜く作戦をとりました。
屋外で古いケーブルをカットし、残りを1階の室内方向へ抜き去ります。その後、1階からガイドワイヤーを挿入。ガイドワイヤーとLANケーブルを結び、配管内の摩擦を減らすためにシリコン潤滑スプレーを吹き付けながら、慎重に通線を行いました。
(※2階の壁の中から、10mほどの長さの余剰ケーブルが出てくるという一幕もありました)
ガイドワイヤーが無事先端から出てきたのを確認
無事に1階から2階まで通線が完了し、壁面端子の作成(成端作業)に入ります。
今回使用したCat6Aケーブルは「U/UTP(シールドなし)」タイプです。Cat6Aにはシールド付きのF/UTPなどもありますが、ご自宅の設備にアース端子がない環境でシールド付きを使用すると、かえってノイズを拾いやすくなる(アンテナ効果)こともあるため、環境に合わせた最適な部材を選定しています。
2階はもともと端子があったため、既存のプレートで仕上げましたが、事前にわかっていれば東芝のプレートを用意しておきたかったです
1階のプレートは、車内に東芝の在庫があったのでこちらで仕上げました。
2階のコンセント周りも綺麗に仕上げました。もともとの施工で、なぜか「3口+1口の2列プレート」ではなく、コンセントとLANが別々のプレートに分かれて設置されていました(壁裏に柱があるわけでもありませんでした)。既存のコンセントが東芝製だったためメーカーを合わせたかったのですが、残念ながら当社に東芝の1個穴プレートの手持ちがなく、このような仕上がりとなっています。
こうして、外壁に新たな穴を開けることも、屋外にケーブルを這わせることもなく、見えない壁の中のルートを活用した美しいCat6A化工事が完了しました。
ここまでの長さを壁の中に押し込む必要はないと思いますが
最後にケーブルのテストを行いました
お客様ご自身でもPCをつなげてスピードテストをして確認いただきました。




