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2022年10月11日に日本でもサービスが開始されたSpaceXの衛星インターネットサービスのStarlinkですが、工事の際には注意が必要です。
工事の内容と資格・許認可の有無によっては違法工事になります。


一部の熱狂的なファンが我先にと導入報告をSNSなどで報告し、それに呼応するようにいくつかの工事会社がStarlinkの工事の受付を始めています。
衛星アンテナをしっかり固定することが重要と思ってか、アンテナ工事を行っている会社への問い合わせがあるようです。
実際にアンテナ工事のノウハウが大きく役に立ちそうな工事に思えますが、工事を行うにあたって資格や許認可は不要なのでしょうか。

Starlinkの設置工事は多くの場合電気工事になります

Starlinkのインストールにおいて、アンテナの設置・据え付け自体は電気工事には当たりません。
ルーターの設置、および付属のLANケーブルの接続も問題ありません。
では何が電気工事になるのでしょうか。

アンテナ工事と電気工事業法、電気工事士法、施行令第一条(軽微な工事)

ここでまず、当社でもよく訊かれる「アンテナ工事は電気工事士ではなくても工事ができる理由」について説明します。
家庭用のブースターは主にセパレートタイプと呼ばれるものが使われており、ブースター電源ユニットとブースター本体間のアンテナ線には15V~20V(現在の主流は15V)の電気が重畳されています(電気信号以外に機械の動作電流が重ねて流されること)。またBSアンテナは15Vの電気を使うため、BSアンテナに直接繋がっているアンテナ線にも電気は流れています。
電気の流れている線、つまり電線の取扱いにおいて、電気工事士の資格や電気工事業の許認可は不可欠ですが、電気工事士法施行令第一条では、小型変圧器の二次側の配線が36V以下の場合は、この配線の工事についてはそもそも電気工事ではないとされています。そのため、電気工事士以外が配線工事を行うことも問題はなく、会社が電気工事業の許可を取得していなくても問題ありません。
※コンセントの作成など電気工事に携わる場合やエアコン工事については許認可が必須です。

販売に伴う工事

また経済産業省のよくある質問(電気工事)のQuestion1には以下のように記述されています。

Question1:電気工事業法における、「電気工事」とは何か。
Answer:・・・家庭用電気機械器具(ラジオ、テレビ、扇風機、冷蔵庫、ストーブ、こたつ、電灯等で、主として家庭で使用されるもの)の販売に付随して行う工事も、この中に含まれません。

これはエアコンの販売に伴う取り付けや、アンテナやブースターを販売に伴う取り付けの場合は電気工事にあたらない、とも解釈できます。
ただし、販売店の下請け業者が行う取り付けはこの例外に含まれません。

電気工事業の業務の適正化に関する法律(電気工事業法) 第二条より、電気工事業の定義

電気工事業の業務の適正化に関する法律
(定義)
第二条 

この法律において「電気工事」とは、電気工事士法(昭和三十五年法律第百三十九号)第二条第三項に規定する電気工事をいう。ただし、家庭用電気機械器具の販売に付随して行う工事を除く。

  1. この法律において「電気工事業」とは、電気工事を行なう事業をいう。
  2. この法律において「登録電気工事業者」とは次条第一項又は第三項の登録を受けた者を、「通知電気工事業者」とは第十七条の二第一項の規定による通知をした者を、「電気工事業者」とは登録電気工事業者及び通知電気工事業者をいう。
  3. この法律において「第一種電気工事士」とは電気工事士法第三条第一項に規定する第一種電気工事士を、「第二種電気工事士」とは同条第二項に規定する第二種電気工事士をいう。
  4. この法律において「一般用電気工作物」とは電気工事士法第二条第一項に規定する一般用電気工作物を、「自家用電気工作物」とは同条第二項に規定する自家用電気工作物をいう。

電気工事士法 第二条より、電気工事業法における電気工事の定義

電気工事士法
(用語の定義)
第二条 

この法律において「一般用電気工作物」とは、電気事業法(昭和三十九年法律第百七十号)第三十八条第一項に規定する一般用電気工作物をいう。

  1. この法律において「自家用電気工作物」とは、電気事業法第三十八条第三項に規定する自家用電気工作物(発電所、変電所、最大電力五百キロワット以上の需要設備(電気を使用するために、その使用の場所と同一の構内(発電所又は変電所の構内を除く。)に設置する電気工作物(同法第二条第一項第十八号に規定する電気工作物をいう。)の総合体をいう。)その他の経済産業省令で定めるものを除く。)をいう。
  2. この法律において「電気工事」とは、一般用電気工作物又は自家用電気工作物を設置し、又は変更する工事をいう。ただし、政令で定める軽微な工事を除く
  3. この法律において「電気工事士」とは、次条第一項に規定する第一種電気工事士及び同条第二項に規定する第二種電気工事士をいう。

電気工事士法施行令 第一条より、政令で定める軽微な工事の定義

電気工事士法施行令
第一条 電気工事士法(以下「法」という。)第二条第三項ただし書の政令で定める軽微な工事は、次のとおりとする。

  1. 電圧六百ボルト以下で使用する差込み接続器、ねじ込み接続器、ソケット、ローゼットその他の接続器又は電圧六百ボルト以下で使用するナイフスイッチ、カットアウトスイッチ、スナップスイッチその他の開閉器にコード又はキャブタイヤケーブルを接続する工事
  2. 電圧六百ボルト以下で使用する電気機器(配線器具を除く。以下同じ。)又は電圧六百ボルト以下で使用する蓄電池の端子に電線(コード、キャブタイヤケーブル及びケーブルを含む。以下同じ。)をねじ止めする工事
  3. 電圧六百ボルト以下で使用する電力量計若しくは電流制限器又はヒューズを取り付け、又は取り外す工事
  4. 電鈴、インターホーン、火災感知器、豆電球その他これらに類する施設に使用する小型変圧器(二次電圧が三十六ボルト以下のものに限る。)の二次側の配線工事
  5. 電線を支持する柱、腕木その他これらに類する工作物を設置し、又は変更する工事
  6. 地中電線用の暗(きよ)又は管を設置し、又は変更する工事

Staralinkの工事に関係するのは電気工事士法施行規則第二条第一項(軽微な作業)

前述した電気工事士法施行令によると、36V以下の二次側電線の工事はそもそも電気工事ではない、ということがわかりました。
Starlinkもテレビ放送のBSアンテナのように電気を使って動いています。ではStarlinkのアンテナにつながる配線には何ボルトの電線がつながっているのでしょうか。


SNSなどでStarlinkのACアダプターの画像やスペック表が公開されていますが、それをみるとPoE(Power over Ethernet)電圧は(最大)56Vのようです。
アンテナに雪が積もるのを防ぐ融雪機能も付いているようなので、そのせいかもしれません。

starlink-router-PoE-output
2022年12月ではすでに新型アンテナ(長方形のアンテナ)セットに切り替わっていますが、こちらはPoE電圧が48Vに改変されていました。

新型アンテナはACアダプターを使っておらず、ケーブルも独自形状の専用ケーブルをルーターからアンテナに接続する仕様に変わっています。
スターリンク新型アンテナの取付事例(屋上へマスト設置)

ここで電気工事士法施行規則第二条第一項を見てみましょう。
この条項では、電気工事の中でも軽微な作業(施工者本人に電気工事士の資格を求めないもの)について記述があります。

電気工事士法施行規則 第二条

電気工事士法施行規則
第二条 (軽微な作業)法第三条第一項の自家用電気工作物の保安上支障がないと認められる作業であつて、経済産業省令で定めるものは、次のとおりとする。

  1. 次に掲げる作業以外の作業
    1. 電線相互を接続する作業(電気さく(定格一次電圧三百ボルト以下であつて感電により人体に危害を及ぼすおそれがないように出力電流を制限することができる電気さく用電源装置から電気を供給されるものに限る。以下同じ。)の電線を接続するものを除く。)
    2. がいしに電線(電気さくの電線及びそれに接続する電線を除く。ハ、ニ及びチにおいて同じ。)を取り付け、又はこれを取り外す作業
    3. 電線を直接造営材その他の物件(がいしを除く。)に取り付け、又はこれを取り外す作業
    4. 電線管、線樋ぴ、ダクトその他これらに類する物に電線を収める作業
    5. 配線器具を造営材その他の物件に取り付け、若しくはこれを取り外し、又はこれに電線を接続する作業(露出型点滅器又は露出型コンセントを取り換える作業を除く。)
    6. 電線管を曲げ、若しくはねじ切りし、又は電線管相互若しくは電線管とボックスその他の附属品とを接続する作業
    7. 金属製のボックスを造営材その他の物件に取り付け、又はこれを取り外す作業
    8. 電線、電線管、線樋ぴ、ダクトその他これらに類する物が造営材を貫通する部分に金属製の防護装置を取り付け、又はこれを取り外す作業
    9. 金属製の電線管、線樋ぴ、ダクトその他これらに類する物又はこれらの附属品を、建造物のメタルラス張り、ワイヤラス張り又は金属板張りの部分に取り付け、又はこれらを取り外す作業
    10. 配電盤を造営材に取り付け、又はこれを取り外す作業
    11. 接地線(電気さくを使用するためのものを除く。以下この条において同じ。)を自家用電気工作物(自家用電気工作物のうち最大電力五百キロワット未満の需要設備において設置される電気機器であつて電圧六百ボルト以下で使用するものを除く。)に取り付け、若しくはこれを取り外し、接地線相互若しくは接地線と接地極(電気さくを使用するためのものを除く。以下この条において同じ。)とを接続し、又は接地極を地面に埋設する作業
    12. 電圧六百ボルトを超えて使用する電気機器に電線を接続する作業
  2. 第一種電気工事士が従事する前号イからヲまでに掲げる作業を補助する作業

上記に書いてある作業は電気工事の中でも軽微な作業ではないということになり、電気工事士の免許が必要になるという意味です。
すると、上記ハ、ニにあたるような作業は電気工事士ではないとできないことになります。
Starlinkのルーターからアンテナ本体までのLANケーブルを投げっぱなし(転がし配線)にするのであれば問題ありませんが、多くの方がきれいに配線したいと思うのではないでしょうか。これは電気工事士の作業になるので、個人的な使用(DIY)の場合でも資格は必要です。自宅の電気コンセントを無資格で勝手にいじってはいけないのと同様です。
また業として行う場合(つまり、仕事として請け負う場合)は個人(個人事業主)か法人かにかかわらず、電気工事業の登録が必要になります。
一般の方にはわかりにくいルールなので、実は電気工事業の登録のない(電気工事においては素人の)アンテナ工事会社などもStarlinkの工事を請け負います、などと言っている場合があります。※本人が無自覚でも違法工事です

トラブルを避けるためには

違法工事にならないためには、その会社概要に電気工事業の登録が明記されているか確認しましょう。
電気工事業の登録業者はその表記を会社のよく見える場所に掲示する義務があります。
それを考えると、登録業者が自社のホームページに登録番号を明示しないのは不自然ですので、明示されていない会社はほぼ電気工事業の登録がされていない会社だと思っていいでしょう。
多くのアンテナ工事専門会社は電気工事業の登録がなく、電気工事について知識が足りていないように思います。
スターリンクの工事について電気工事だと一切触れない会社はNGです。
くれぐれも無免許・無許可営業の業者への工事依頼を行ってトラブルに巻き込まれないようにお気を付けください

どんなトラブルが考えられるのか

  1. 知識のない人の施工による事故
  2. 電気工事士の免許がないまま電気工事を行うのは、無免許のタクシーに乗るようなものです。免許を持っていれば無事故だとは言いませんが、何のための免許なのか考えてみましょう。

  3. 万が一の事故の際に保険が適用されないリスク
  4. 工事会社が損害賠償保険に加入していたとしても、無免許や無許可で行った工事(不法行為)にまつわる事故に対して保険金を支払ってくれるとは思えません。電気火災が起きてしまった際に、工事会社が保険を使えないために損害賠償を行えないという事態も起こりえます。そもそも素人の工事なので事故のリスクも上がっていると考えられるでしょう。

2023年1月15日 軽微な作業と軽微な工事を混同するような記述の訂正、電気工事士法の追加引用、引用の順番の整理など一部加筆・訂正を行いました。

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投稿者プロフィール

松本 昭彦代表取締役
幼少期より家電設備の工事に触れていて、15年ほどさまざまな設備工事に携わり、クレーム処理責任者を経て2011年に独立。
品質重視と明朗会計をモットーに、業界改革を目標にアンテナ工事専門会社としてクラウンクラウンを立ち上げました。

東京電機大学理工学部情報科学科(中退)
事業構想大学院大学 事業構想士修士課程


主な資格
【国家資格】
1級電気工事施工管理技士
2級管工事施工管理技士
2級電気通信工事施工管理技士補
第一種電気工事士
工事担任者(2級デジタル)
給水装置工事主任技術者
運行管理者

【その他】
第2級CATV技術者
1級あと施工アンカー施工士
インテリアコーディネーター
キッチンスペシャリスト
一級リビングスタイリスト
二級福祉住環境コーディネーター
排水設備工事責任技術者
照明士
Starlinkの無資格工事は違法?36Vを超える電線(PoEケーブル)の取り扱いの注意
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